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大阪高等裁判所 平成5年(う)626号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

当審における未決勾留日数中四〇日を原判決の刑に算入する。

理由

本件控訴の趣意は弁護人江頭幸人作成の控訴趣意書記載のとおりであるから、これを引用する(被告人作成の控訴趣意書は不陳、)。所論にかんがみ、記録及び証拠物を調査し、当審における事実取調べの結果をも参酌して検討する。

一  控訴趣意中、訴訟手続の法令違反の主張について

論旨は、要するに、原判示第二について、大阪府堺北警察署の警察官が人の在室を認識しながら合鍵を使用して扉を開け、鎖錠を切断して、室内に立ち入り、捜索差押許可状を事前に呈示することなく捜索差押を実施しているところ、この捜索差押は令状主義の精神を没却するような重大な違法があるというべきで、これにより又はこれに付随する任意提出により取得した覚せい剤などは違法収集証拠として証拠能力がないにもかかわらず、これらを有罪認定の証拠に供した上で、原判示第二の事実を認定した原判決には、訴訟手続の法令違反があり、その違反が判決に影響を及ぼすことは明らかであるというものである。

しかし、関係証拠により認められる本件捜索差押の執行状況を考えると、この点に関する原判決の認定判断はおおむね正当として是認できる。以下、若干付言する。

原判決が認定したところによると、大阪府堺北警察署では、本件捜索場所の実質的借主は被告人であり、けん銃を所持しているとの情報を入手していたこと、薬物犯罪の事案では捜査官が来たことに気付くと覚せい剤などを投棄して証拠を隠滅してしまうことが予想されたため、当日積算電力計が速く回転していたので室内に人がいることが分かつたが、前日のマンションの管理者に事情を説明して、合鍵を借り受けており、場合によつては鎖錠を切断することもあることの了承も得ていたことから、入室を強行することとし、合鍵で扉を開け、携行していたクリッパーで鎖錠を切断して、警察官が室内に入つたこと、部屋では被告人が裸で女性と寝ていたこと、被告人から切符(令状の意)を見せろとの要求があつたが、警察官は胸をたたきながら「令状はここにあるので後で見せる」旨告げていること、被告人が傍らに置いていたセカンドバッグに手を掛けようとしたが、警察官がそれを制してこのバッグを取り上げ、中にけん銃一丁、実包、覚せい剤様のものなどが入つているのを発見したこと、被告人に衣服を着けさせた後捜索差押令状を呈示していること、被告人の面前で覚せい剤予備検査を実施し、被告人を覚せい剤所持の現行犯人として逮捕したこと、などというのであり、関係証拠に照らし、この認定は首肯することができる。そして、このような事情のもとでは、たとえ人の在室が予想されたとしても、合鍵による開扉、鎖錠の切断は、捜索差押の執行についての必要な処分として許されると解され、警察官がこれらの手段を使つて室内に立ち入つたことには問題はなく、また、必ずしも捜索差押の開始に先立つて捜索差押許可状を被告人に呈示しなかつたからといつて、それが違法不当であるとは思われない。したがつて、本件捜索差押には、違法は認められず、その際に押収した覚せい剤などを違法収集証拠として証拠能力を排除しなければならない理由も認められない。これと同旨の原判決の判断は相当であり、原判決には所論の訴訟手続の法令違反は認められない。論旨は理由がない。

二  控訴趣意中、量刑不当の主張について

論旨は、要するに、刑期の点において重過ぎて不当であるというものである。

本件は、覚せい剤の自己使用(原判示第一)、覚せい剤約八・九八六グラムと実包一五発を装填したトカレフ型けん銃一丁の所持(原判示第二)、別の場所における覚せい剤約〇・七九四グラムの所持(原判示第三)の事案からなる。被告人が、所持していた覚せい剤の量は合計約九・七八〇グラムであり、自己使用が目的だとすると非常に多量であり、また、実包を装填したけん銃の所持が市民社会に与える危険感は大きく、犯情悪質といわなければならない。加えて、被告人には、覚せい剤取締法違反罪及びこれを含む懲役前科が六件(うち二件が累犯前科である)もあり、前刑で出所後わずか一〇箇月で本件各犯行に及んでいるのであつて、被告人の刑事責任は重いといわざるを得ない。

そうすると、被告人が覚せい剤との関係を今度こそ断ちたいと述べていること、その反省の態度、更生の意欲などを十分にしんしやくしても、被告人を懲役四年六月に処した原判決の量刑(求刑懲役六年)はやむを得ないところで、重過ぎて不当であるとはいえない。論旨は理由がない。

よつて、刑訴法三九六条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の算入につき刑法二一条を、当審における訴訟費用を被告人に負担させないことにつき刑訴法一八一条一項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小瀬保郎 裁判官 萩原昌三郎 裁判官 長岡哲次)

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